いつも面白い本を教えてくれるMSK君が「最近本読んで無いよ」と言っていました。
非常に良く無い。由々しき問題です。
これはゆゆ式。
今回読んだのは「首里の馬」
2020年の上半期芥川賞を受賞した2冊の片方です。
超最新作です☺️
初めて文藝春秋を買いました。
首里の馬を読んだことのない人でもこのブログさえ読めば、ムカつく上司にマウントを取れるように感想を書くつもりです。ただ僕は面白かったものをそのままオススメすることができないオタクなのでできれば読んで欲しいですね。
最新作を読むのは結構楽しかったので、いつものあっさりした感想じゃなくてしっかりと感じたことを書くつもりです。
好評ならこれからも同じように書いていきます。
じゃああすらじと感想書いていきます。
あすらじ
沖縄の資料館のボランティアをする未名子は見慣れぬ求人に惹かれ、厳しい面接をなんとか突破する。
与えられた職場には古いパソコンと防音の環境があるだけで、スタッフは未名子1人のみ。
未名子はそこでパソコンを通して画面の先の3人にクイズを出し続ける。それがこの仕事の内容だった。永遠と続くクイズ、答え続ける3人。
クイズの答えから未名子は3人の経験を、人生を見つめていく。そして沖縄の歴史と一緒に居場所がなくなるような自分と彼らを照らし合わせていく。
果たして未名子は無事沖縄の歴史を守れるのか!?未名子は突如現れた馬の背においしょと跨り、破壊されていく資料館に背を向けた。
ほんとうのあすらじ
沖縄の歴史は侵略の歴史、言い換えれば沖縄の人々の死が付きまとう。その歴史に幼い頃に触れてから未名子は十数年の間ずっとボランティアをしている。
未名子の仕事はクイズの出題者。テレビ回線を通じて、世界のどこかにいる物知りな人にクイズを出す。怪しい。怪しすぎる仕事。
後半ではクイズのクライアント達がぽつぽつと自分たちの過去を語る。
物知りなヴァンダは自分の国がクーデターで形が変わってしまったこと。
可愛い(妄想)ポーラは家族から与えられる無慈悲の愛に耐えられなかったこと。
オタクのギバノは戦争のために生きてきたこと。戦争のためにたくさん勉強したこと。
それぞれが今までの経験と人生を未名子と共有していた。
3人の孤独を聞いた未名子は閉館が決まった資料館のデータをその3人に託すことにした。
侵略や人との関係や死といった自分には何もできないようなエネルギーとかち合った時に迎える絶望と、その中に自分が持つ希望をたしかな自信として描いて物語は終わる。
ほんのかんそう
侵略や戦争というものは日常としてはイメージしにくくて、つまり非日常であるのが僕の印象なんだけど、沖縄の一部の人々にとっては普遍的な日常の中に思い出せるものなんだという僕とのギャップが冒頭にあった。
結び付けても仕方がないけどコロナ禍による非日常が日常となりつつある感覚にどこか似ているのかもしれない。アナウンサーが速報で伝えるトーキョーデヨンヒャクニンノカンセンシャという日常は僕の侵略に対するイメージとまるで同じなように思えた。
この世には訳わからん仕事やコミュニティがたくさんあるし、それをいちいち気にする人もいない。というより訳わからんものにはみんな恐怖を感じている。言い換えてみると未名子には人から認知されたような居場所がないということが分かる。
その中で仕事のクイズを通して知り合う3人と、閉館が決まり廃棄されることとなった資料というのは居場所がない点で未名子と共通しているように思えた。伏線うますぎるだろ。
物語のクライマックスでは未名子は3人にデータを預ける。好奇心旺盛な彼らならきっとそのデータを見るだろう。
未名子が伝えたキーワードは何かの場所を示していて、4人はいずれ再会するのかもしれない。
その時にまたデータを預けられるよう、ひとつひとつの風景を記録していくのは今という過去を見つめながら未来を見据えている綺麗な終わり方だった。
首里の馬って結局なんやねん
なにより面白かったのが馬。
感想にするとなると全く出てこないくらい存在感が無い。けど沖縄の固有種である馬をタイトルに置くことで沖縄という幻想性がそこにあったし、固有種によって歯抜けのような沖縄の資料の中のたしかな歴史を感じることができた。
めちゃくちゃ上手い。すごかった。(語彙力0)
この前読んだむらさきのスカートの女みたいな、万人受けするような話では無いのかもしれないけど前半をたっぷり伏線に使って、後半でしっかり回収していくのはやっぱりワクワクできた。
漱石みたいな読みにくさは無いからぜひ読んでほしいですね。